人生初の「青春18きっぷ」を利用してJR四国・予讃線の松山以西に行っていました。

四国といえば振り子式特急
カーブ進入に合わせて車体が傾くことで山間部でも高速走行が可能になった、まさにJR四国の看板ともいえるでしょう。
1989~1998年までに製造された世界初の振り子式気動車、2000系気動車の名前や姿を見たことがある人は多いかと思います。

新型車両2600系・2700系の導入により2000系気動車は数を減らしてしまいましたが、高松から宇和島までを結ぶ予讃線の松山以西にて健在!

今回は予讃線末端区間を走る、2000系(N2000系)気動車による特急「宇和海」の乗車レポートをお届け!
合わせて、特急料金がちょっとお安くなるおトクな特急料金も解説します。

※「青春18きっぷ」では特急列車に乗れないので、別途乗車券・特急券を購入して乗車しています。「青春18きっぷ」については別記事参照



特急「宇和海」西予を高速走行

JR四国の特急「宇和海」は、予讃線の西の拠点である松山駅から内子駅を経由し、宇和島駅までの96.9kmを走る特急列車です。
後ほど改めて取り上げますが、途中の向井原~伊予大洲間にて、海沿いを通る伊予長浜経由と、内陸部の内子経由に分かれます。
「宇和海」は全列車、内子経由の短絡ルートを通り、電車特急顔負けのハイスピードで愛媛県西部を行き交っています。

一方の海沿いルートも予讃線の一部ですが、こちらは現在、普通列車のみが行き交うローカル線区に。
しかし本当に海の近くを通るので眺望が非常に良い上、絶景で有名な下灘駅もこちら側。
通称「愛ある伊予灘線」と呼ばれており、時刻表や乗務員・駅員の案内でもこの名前でアナウンスされます。

世界初の振り子式気動車

2000系気動車は、JR四国と鉄道総合技術研究所が共同開発した世界初振り子式特急型気動車
1989(平成元)年に試作車の「TSE」が登場し、「TSE」で得たデータをもとに1990(平成2)年以降に量産型が順次導入されました。
1995(平成7)年からは改良型のN2000系もデビューし、こちらは最高時速130kmに対応しています。

カーブ進入に合わせて車体が傾斜する振り子機能は、国鉄時代に381系「しなの」で初めて実用化されましたが、気動車に振り子機能を搭載したのは2000系気動車が世界初です。

2000系気動車に導入した振り子機能は制御付き自然振り子といいます。
事前に走行線区のデータをコンピューターに入力しておき、読み込んだカーブに入る時に、コンピューター制御で車体をわずかに傾けます。
その後は遠心力で自然に車体が傾き、最大5度傾斜する仕組みです。

それにより、381系で問題視されたカーブに入ってから遅れて発生するガクつきを抑え、乗り心地の改善が実現しました。

しかし登場からすでに30年あまり経過したため老朽化もしており、2000系に代わる新型特急として2017(平成29)年に2600系が、2019(令和元)年に2700系が登場し、2022年1月までに高徳線特急「うずしお」土讃線特急「南風」「しまんと」「あしずり」の一部を置き換えています。

そのため2022年1月現在も2000系気動車で運行されているのは、予讃線特急「宇和海」土讃線特急「あしずり」の一部列車のみとなりました。

…とまぁ座学の時間はここまでにしておきましょう。
あとは実際に乗れば分かります!

日暮れの南予から松山へ

今回は宇和島駅を18時8分に発車するN2000系、松山行きの特急「宇和海26号」に乗車し、松山駅まで全区間を走破しました。
発車の時点で真っ暗でしたが、前後の日に沿線で撮影しまくったので、その写真と合わせてお楽しみください。

さぁ、18時8分に「宇和海18号」が宇和島駅を発車!
今回は1号車・自由席の9A(松山方面に向かって左の窓側)に着席しました。
時間も時間なのでそれなりの人数が乗っており、見える範囲の人はみんなくつろいでいましたよ。

特急「宇和海」にはグリーン車は連結されておらず、座席の半分以上が自由席
指定席は松山方先頭車の半分で、枕カバーが青色の座席のみです。
ので、無理に座席指定を受けなくても乗りやすくて助かります。

ちなみに宇和島駅前には、宇和島で最初に走ったコッペル社製機関車の復元モデルが飾られていました。

隣の北宇和島駅からは、江川崎・窪川方面への予土線が分岐していきます。
あの0系新幹線を模した「鉄道ホビートレイン」を始め、様々なラッピング列車が四万十川沿いを走る、にぎやかなローカル線になっていますね。

高光駅の前後からさっそくカーブの連続。
待ってましたと言わんばかりに「宇和海26号」は右に左に車体を傾斜させ、振り子を利かせながら高速で通過しました。

ちなみに乗車中にも、振り子の「クッ」と傾く動作は体感で分かります。
とくに線路にカントが設けられている場合、線路自体もカーブに合わせて傾いているため、振り子車両の傾きとカントの傾きが合わさってそれはもうすごいことに。
なのに乗っている身にはあまり負担がかからず、振り子未体験だった私には何とも不思議な感覚でした。

吉田の海を見て峠越え

上り「宇和海」最初の停車駅は伊予吉田駅。

伊予吉田駅の近くには宇和島湾が接近しており、車窓から海を拝める絶景ポイント!
撮影した時はあいにくの天気でしたが、晴れていれば最高に見ごたえのある景色になるはず。

伊予吉田駅を出ると、立間~下宇和間を通過する間に法華津峠を越えます。
急激に山深くなり急こう配が続く、鉄道にとってはかなりの難所。

「宇和海26号」は振り子とハイパワーを活かして、カーブでも速度をあまり下げずに走行。
エンジンを力強く鳴動させるもジョイント音は軽やかに、難所に挑んでいます。

また、日中は峠越え中の車内から法花津湾の海が見られるので眺望も抜群です。

卯之町に停まってまた山道

下宇和駅あたりから西予市の市街地に入っていき、特急「宇和海26号」は卯之町駅に停車。

西予市役所や文化会館・体育館などの最寄りにもなっている西予市の中心・卯之町駅。
訪れた時には建て替え工事中だったのか、元々の駅舎が解体されており仮駅舎になっていました。

卯之町駅では行き違いや特急待避が可能です。
この先でもそうですが、単に上下線が行き違うだけでなく、後から追いかける特急列車が先行する普通列車を追い抜くためにも、交換・待避設備が多くの駅に設置されていますよ。

卯之町駅を発車すると伊予石城駅まで広い田園風景が続くものの、笠置峠の長いトンネルに入って再び峠越えに。
双岩駅で少しだけ開け、次の八幡浜駅にかけてまた山道に入ります。
この間、線路は道路よりも高い位置に通っているので、眼下には山道を蛇行する車を見つつ、近くまで接近する緑の景色を眺めることができます。

もっとも、「宇和海26号」乗車時はすでにお外真っ暗で、車や住宅等の光以外何も見えませんでした。

ちゃんぽんとフェリーをしのぶ

そんな峠越えにも終わりのきざしが。
八幡浜駅に近づくと、次第に平坦な道に戻りながら住宅地が展開していき、千丈川を渡って八幡浜駅に到着します。

大半の普通列車はここで系統分離しており、松山~八幡浜間と八幡浜~宇和島間で乗り換えが必要なこともしばしば。
特急列車は全列車が松山~宇和島間を走破するので、普通列車との時間が合わない場合は特急課金したほうが良いでしょう。

駅から西に歩けば八幡浜港にたどり着き、そこからフェリーで別府港・臼杵港まで渡ることができます。
九州へ渡る場合に四国を経由した場合はフェリーにお世話になることがあるかもしれませんね。
なお駅から港までは徒歩約30分なので注意されたし。

また、長崎のちゃんぽんとは似て非なる「八幡浜ちゃんぽん」も有名どころ。
時間が無かったのでコンビニで売ってたものをいただきましたが、それでも食べ応え十分!
次は地元のお店でいただきたいですね。

次の山道の先は肱川とお城

八幡浜駅で観光帰りと思われる乗客などが増え、私の隣の席も埋まりました。
引き続き、特急「宇和海26号」はディーゼルエンジンを唸らせながら爆走し、千丈駅から伊予平野駅にかけて、またまた長いトンネルに入ります。

伊予平野駅からしばらくの間、両側を山に挟まれつつも田畑が広がる沿線を走り、広大な肱川を横断!

肱川を渡ればまもなく伊予大洲駅に到着します。
伊予大洲止まり・始発の普通列車も多く、松山~八幡浜間の普通列車の大半は伊予大洲駅か八幡浜駅で折り返します。

肱川に恵まれた水郷の地にそびえ立つは大洲城!
川を渡った南に大洲城は位置し、風情のある城下町が並んでいること。

また、肱川沿いに緑地公園が整備されており、列車の撮影中、子どもたちが楽し気に遊び回ってる声を耳にしました。
日本三大鵜飼の一つもこの大洲・肱川で行われているらしいです。

駅前には観光案内所があり、レンタサイクルを行っていました。
市街地の周遊に役立ててはいかがでしょうか。

ルート分岐!特急は内子へ

伊予大洲駅から「宇和海」に乗車する人も多く、ここまでで1号車は、パッと見3分の2くらいの座席が埋まりました。
観光帰りのお客、帰省を終えるっぽい人、仕事帰りと思われる人など、満席ではなくても利用者層の広さがうかがえます。

先述の通り、ここから向井原駅までは愛ある伊予灘線経由と内子線経由に分かれます。
「宇和海」は内子線経由のため、伊予若宮信号場の分岐を右に大きく曲がって再び山間の地へ。

その内子線は、正式には内子駅・五十崎駅・喜多山駅・新谷駅を結ぶ5,3kmの路線を指しますが、実際は予讃線のメインルートの一部になっています。
ぶっちゃけ、特急に乗っていれば気づかぬうちに通り過ぎてるでしょう。

しばらくは開けた車窓が続くも交換駅の新谷駅から山地が接近し、五十崎駅からトンネルに進入。
トンネルを抜けるとすぐ高架区間になり、市街地を見下ろしながら内子駅に到着です。

内子駅前にはC12形231号蒸気機関車の静態保存機が展示されていました。
1969(昭和44)年4月から1970(昭和45)年3月末までの間、町内や小田川流域で生産される木炭・木材を輸送していたようで、内子線で活躍した蒸気機関車としては最後の個体にあたるそうです。

が、屋根がなく雨風吹きさらしの状態なので、車体の状態があまり良いとはいえませんでした。
関係各位の手により修復され、末永く愛され続けることに期待しております。

伊予市駅停車、伊予鉄乗り換えも

内子駅からも、向井原駅手前まで引き続き山間部を走行。
線形が良い上に車両には振り子機能搭載ということもあり、カーブが続こうがお構いなしのトップスピードでぶっ飛ばします。

伊予中山~伊予大平間には四国最長の犬寄トンネル(6,012m)が!
長いトンネルを高速で突っ切っていくその様は、新幹線ほどではないけどまさに「バレットトレイン」!

そして向井原駅で愛ある伊予灘線と合流。
向井原駅の次は伊予市駅で、この駅に「宇和海」も停車します。

伊予市の中心駅で、この駅のすぐ近くに伊予市役所を見かけました。
予讃線の電化区間は高松駅から伊予市駅まで続いており、松山以東から運行している7000系が入線することも1日に数回ありますよ。

乗換案内では放送されませんが、実は伊予鉄道郡中線の終点・郡中港駅と道路をへだてて隣り合っており、元京王電鉄の車両も見ることができます!
港と名がついている通り海に近い立地なので、民家の合間から瀬戸内海がチラ見えするかも。

そして松山駅へ

伊予市駅から北はもう市街地。
松山運転所の隣に2019年にできた新駅・南伊予駅を含め、終点の松山駅まで停まりません。

郡中線が港湾付近の住宅街を走行するのに対して予讃線は進路を東に取り、田園風景が続く中を主に走っていきます。

そして建設中の高架を横目に、「宇和海26号」は19時28分、終点の松山駅に到着しました!
ここから19時32分発・高松行きの特急「いしづち102号」と、20時4分発・今治行きの普通に乗り換えることもでき、松山以東への接続を図っていました。

また、松山駅を含む、市内中心部には伊予鉄道の市内線(路面電車)も通っています!
JRの松山駅の向かい側、「KISUKE BOX」のそばに伊予鉄のJR松山駅前停留所が立地しており、特急列車から路面電車に乗り換えて大街道や道後温泉に向かう、という乗り方も可能です。

宇和島駅から松山駅まで、「宇和海26号」は1時間20分で走破。
夜の山間部に響くディーゼルエンジンの轟音と振り子を感じながら、ハイスピードで走行する元祖振り子式気動車を楽しませていただきました。



短距離利用で自由席が安い

特急「宇和海」をはじめ、JR四国の特急列車にはおトクな特急料金が適用されます。

乗車駅から降車駅までの営業キロが25km以下の場合、自由席特急料金が330円指定席特急料金(通常期)は1,070円
50km以下の場合は自由席特急料金が530円になります。
要するに、短距離で特急に乗ると特急料金が通常より安く済むのです。

「宇和海」の場合は以下の通り。

営業キロ25km以下になる区間

  • 松山~伊予市(11.6km)
  • 内子~伊予大洲(11.2km、運賃計算上は11.7km)
  • 内子~八幡浜(24.5km、運賃計算上は25km)
  • 伊予大洲~八幡浜(13.3km)
  • 八幡浜~卯之町(14.6km)
  • 卯之町~伊予吉田(11.9km)
  • 卯之町~宇和島(20.2km)
  • 伊予吉田~宇和島(8.3km)

営業キロ50km以下になる区間

  • 松山~内子(37.6km)
  • 松山~伊予大洲(48.8km、運賃計算上は49.3km)
  • 伊予市~内子(26km)
  • 伊予市~伊予大洲(37.2km、運賃計算上は37.7km)
  • 内子~卯之町(39.1km、運賃計算上は39.6km)
  • 伊予大洲~卯之町(27.9km)
  • 伊予大洲~伊予吉田(39.8km)
  • 伊予大洲~宇和島(48.1km)
  • 八幡浜~伊予吉田(26.5km)
  • 八幡浜~宇和島(34.8km)

予讃線の松山以西は普通列車の本数が少ない上、向井原~伊予大洲間は二手に分かれるので、思った通りに動けないことがあるかもしれません。
普通列車の本数の少なさを特急列車である程度補っているのかと、私は解釈しています。

とくに、八幡浜以南の普通列車は本数が激減します。
午前の下り(八幡浜8時12分発・宇和島9時10分着)上り(宇和島6時47分発・八幡浜7時59分着)を逃すと、次はお昼の下り(八幡浜12時26分発・宇和島13時23分着)上り(宇和島12時23分発・八幡浜13時40分着)まで普通列車が1本も来ません

なので、短距離移動時に自由席特急料金が安くなることを知っておけば、特急停車駅に限りますがお得に移動できるかと思います。
それでも特急料金はまぁまぁかかるので、避けたい場合は路線バスに頼りましょう。

なお、「しおかぜ」「南風」「うずしお」で岡山~児島・宇多津・丸亀間に乗車すると自由駅特急料金は560円。
それ以外の場合も、特急料金には児島~宇多津間の加算運賃110円が含まれます。

さいごに

今回は、振り子式特急型気動車2000系・N2000系が健在の、JR四国・予讃線特急「宇和海」に宇和島駅から松山駅まで乗った乗車レポートと、おトクな特急料金のお話でした。

新型車両2600系・2700系の台頭で置き換えが進んでしまった元祖振り子式気動車ですが、松山~内子~宇和島間の特急「宇和海」でその姿を見ることができます。
車体を傾けながらカーブを高速通過するのは、振り子未体験の私には不思議な感覚でした。
が、振り子の傾きとレールの傾きが合わさって、すごい速さでカーブを越えることができる、鉄道の技術力の高さも垣間見ることができます。

自由席の数も多く、短距離ならお安く乗れるので、上手く使いこなしてみましょう。

今回はここまで!
ありがとうございました!

参考

『日本と世界の鉄道カタログ ’94~’95』成美堂出版 1994年
『日本鉄道旅行地図帳 11号 中国・四国』監修:今尾恵介 新潮社・新潮「旅」ムック 2019年
『JTB小さな時刻表 季刊冬号』JTBパブリッシング 2021年

JR四国公式サイト 車両情報
JR東日本公式サイト 特急券・おトクな特急料金
(いずれも別タブで開きます)