関東大手私鉄の一つである西武鉄道は、池袋駅から飯能駅を経て西武秩父駅へ向かう池袋線・西武秩父線と、西武新宿駅から小江戸・川越(本川越駅)へ向かう新宿線の、二大主幹路線を有しています。

池袋線は、東京メトロ・東急電鉄との相互乗り入れにより、都心や神奈川県にもアクセスしやすいですし、特急「ラビュー(Laview)」000系は目を見張る話題性&快適性。
新宿線は、池袋線とJR中央線の絶妙な間を押さえ、JR・東武よりも川越市「蔵造りの街並み」に近い場所まで行けます。

そうした池袋線・新宿線を含めてどの路線とも接続していない、離れ小島になっている路線があります。
それが、西武多摩川線

西武多摩川線は他の西武線と接続しない単独路線ですが、実は本線系統から外れた旧型車両が活躍し、都内ではめったにないサイクルトレインも。
春のお花見シーズンに最適なスポットもあります。
さらに、将来的には「サステナ車両」として、東急電鉄9000系の導入も予定されているのです。

今回は西武鉄道の中でも特に個性的な、西武多摩川線の魅力をご紹介します!
本稿をご覧の上、ぜひ足をお運びください!


多摩南部の西武線

西武多摩川線は、JR中央線と接続する武蔵境駅から、府中市の多摩川沿いに位置する是政(これまさ)駅までを結ぶ、全長8.0kmの路線。
都内では珍しく全線単線で、武蔵境駅から順に、新小金井駅、多磨駅、白糸台駅、競艇場前駅、是政駅の6駅あります。

冒頭で述べた通り、他の西武線とは接続していません。
一応、武蔵境駅でJR中央線と線路が繋がっているので、中央線を借りて車両を甲種輸送することがあります。
他にも、白糸台駅では京王線と乗り換えができます。

武蔵境駅こそ高架化されているものの、それ以外は全て地上駅。
住宅地が広がり、ところどころ畑も点在する、郊外の生活路線といった趣です。

高架に切り替えられたのは2006年12月のこと。
それまでは、中央線とホームを共有していました。
先に西武線を高架化した後に中央線も作業が進み、2014年3月に事業が完了しました。

それ以外にも、競艇場前駅は多摩川競艇場、是政駅は東京競馬場(府中競馬場)の最寄り駅にもなっています。
公式にはアナウンスされませんが、一応、是政駅からの隠れ乗り換えもあるのでぜひ歩いてみましょう。

基本12分間隔ダイヤ

全線単線とはいえ、路線長は大して長くありません。
そのため、運行本数は早朝深夜を除き、上下線とも基本12分間隔です。
新小金井駅と白糸台駅で上下線の行き違いを行っています。

早朝のみ、車両基地がある白糸台駅からの始発がありますが、それ以外はほぼ全て武蔵境行きと是政行き。
どちらも12分ごとに来るので、上下線さえ間違えなければ迷うことはありません。
待ち合わせのない駅だと武蔵境方面・是政方面で時刻がズレるので、そこだけ注意しましょう。

簡易改札機・集札箱を使った乗車方法

西武多摩川線はICカードに対応しているので、乗り方は他の大半の首都圏各線と基本的に同じです。
が、武蔵境駅と多磨駅以外、各駅に置かれているのは簡易改札機
意外なことに有人改札のラッチも残っていて、完全には自動改札機に置き換わっていません。

そのかわり、自動改札機がない駅で購入したきっぷには「入鋏省略」と印字されます。
これを持ったままホームに入ってOKです。

列車を降りて駅を出る時、ICカードは改札機にタッチ
きっぷは、自動改札機があればそこに通してください。
自動改札機がない駅では、きっぷ回収箱(集札箱)にきっぷを入れて出場しましょう。

自動改札機と簡易改札機が混在しているため、自動改札機に通したきっぷをきっぷ回収箱に投入することも、入鋏省略きっぷを自動改札機に通すこともあります(ちゃんと出られます)。


古参車両がのんびり活躍

2024年7月時点の西武多摩川線では、西武最古参の新101系が使用されています。
黄色・ダークベージュのツートンカラーが2編成。

伊豆箱根鉄道駿豆線カラーが1編成。

昭和の旧型車両を模した赤電カラーが1編成います。
西武多摩川線は全てワンマン運転です。

駅間距離はほどほどに長く、速度を出すところもあります。
そうすると、抵抗制御の直流モーターがまぁ良く唸ること!
「音鉄」的にもオススメ!

一応、狭山線でも新101系が運行しており、こちらでは黄色一色と近江鉄道カラーが運行しています。

西武101系は1969(昭和44)年に登場しましたが、新101系は1979(昭和54)年登場で10年間のブランクがあります。
なお足回りは共通です。
多摩湖線でワンマン運転が開始されるにあたって1998(平成10)年に新101系の一部がワンマン改造を受け、2005年に更新工事も行われました。

ただし、「新」と言っている割に西武最古参クラスのため、後述する「サステナ車両」が導入されれば間違いなく置き換え対象となるでしょう。

砂利輸送から西武線に

ところで、なぜ多摩川線は他の西武線と繋がっていないのでしょうか?
その理由は、歴史上の経緯によって現西武鉄道に編入されたからです。

西武多摩川線の起こりは、多摩川の砂利を採掘・輸送するために設立された多摩鉄道でした。

1917(大正6)年10月に境(現・武蔵境)~北多磨(現・白糸台)間が開業、1919(大正8)年6月に常久(現・競艇場前)延伸、1922(大正11)年6月に是政駅まで延伸し全通しました。

貨物営業を行っていた当時、是政駅には砂利を積み込む設備が、常久駅はそれに加え、砂利軌道取り卸し線軌道線から多摩川線に積み替える設備があったそうです。
常久~是政間に採掘場があったらしいですね。
さらに新小金井駅には、砕石積み込み線、砕石工場とその専用線、原石取り卸し線があったとのこと。

ところが1927(昭和2)年、入間川流域の旧安比奈線で砂利採取をしていた西武鉄道(旧会社時代)が、砂利採取事業を強化するために多摩鉄道を合併
少し時間が飛んで戦後の1945(昭和20)年9月、武蔵野鉄道(現・池袋線)と旧西武鉄道(現・新宿線など)が合併して現在の西武鉄道になりました。

開業当初は機関車運行でしたが、1950(昭和25)年に電化されています。

ちなみに、昭和40年代に入って多摩川砂利採掘が禁止されたことにともない、開業当時から行っていた貨物輸送は1964(昭和39)年に廃止
採掘場の跡地には多摩川競艇場が建設されました(1954年完成)。
今のように高い壁で覆われていないので、電車はまるで水辺を走るようでした。

また、路線名も結構変わっており、「多摩線」「是政線」「武蔵境線」と経て1955年に「多摩川線(西武多摩川線)」に落ち着いたようです。


都内じゃ珍しいサイクルトレイン

こんな風に、砂利運搬メインから郊外の生活路線として発達してきた西武多摩川線。
実は今、都内では数少ないサイクルトレインを行っています。

平日下りは、武蔵境9時6分発から16時42分発まで。
平日上りは、是政9時9分発から16時45分発まで。
土日は上下線とも終日自転車を無料で車内に持ち込むことができます!

1号車(武蔵境方先頭車両)の座席両端オレンジ色の固定ベルトが用意されているので、自転車持ち込み時はそこに自機を固定してください。
一人1台までで、1編成に最大8台持ち込み可能です。
駅構内の床の随所にもサイクルトレインの案内が掲示されているので、それに従いましょう。

ただし多摩川線の自転車持ち込みにも、時間以外の条件があります。
原動機付自転車スタンドがない自転車、長さ180㎝・ハンドル以外の幅45cmを超える機体は持ち込みNGです。
持ち込んで良いのは一般的なママチャリといったとこでしょうね。

完全に地平の駅ならともかく、武蔵境駅・多磨駅・競艇場前駅は構内で上り下りが発生するため、自転車を持ち込む際は原則エレベーター利用となります。
駅構内では必ず押して歩くべし、乗って漕ぎ回すのはもってのほかです。

このように多少の制約があるとはいえ、東京都内の鉄道車内に、自転車を分解せずに持ち込める路線はまぁありません。
自転車を持ち込める環境にあれば、ぜひサイクルトレインの恩恵にあやかってみてはいかがでしょうか。

二枚橋の桜開花スポットへ!

都内じゃ珍しいサイクルトレインをやってるとはいえ、基本的には生活路線の色が強い西武多摩川線。
実は、桜の開花シーズンには屈指の鉄道花見スポットになります!

西武多摩川線沿線で桜が有名なのは、新小金井~多磨間。
ここで列車は野川を横断します。
一般公道にも「二枚橋」が架かっています。

線路を境に西は武蔵野公園、東は野川公園が、野川に沿って続いており、4月になると各所の桜が一斉に開花!
黄色ツートン、赤電カラー、青・白の西武車両も入れれば、とっても色鮮やかな写真が撮れます!
都内の花見スポットとしても有名な場所で、私の来訪時には多くの花見客が来ていました。

桜だけではなく、築堤上に咲き乱れるは黄色い菜の花のじゅうたん

遊歩道になっている坂道からは、紫色のハナダイコンも見られます。

菜の花もハナダイコンも春頃開花として知られていますが、そこに桜と西武の電車も相まって、非常にカラフルな鉄道風景が見られるのです。
桜並木だけならまだしも、これだけ多彩な鉄道花景色はなかなか珍しいのではないでしょうか。

新小金井駅・多磨駅のどちらからも歩いて行けます。
どちらかといえば新小金井駅から歩くと近い(約15分)でしょう。
次の花見シーズンにぜひ!

将来的に東急車両がやってくる

本線系統から独立しているとはいえ、歴史に花見に旧型車両にサイクルトレインと、趣味的に見れば西武多摩川線は非常に面白いです。
が、新101系もだいぶ年季が入っていて、正直先は長くないでしょう。

そんな中、西武鉄道は小田急電鉄8000形及び東急電鉄9000系「サステナ車両」として導入することを2023年9月に発表しました。
8000形は国分寺線向けで2024年度以降導入予定。
1編成はすでに小手指に来ました。

9000系は多摩湖線・狭山線・西武秩父線・西武多摩川線向けに、2025年度以降導入予定となっています。

総計100両導入予定とされており、2030年までにVVVF化率100%を目指すと発表されています。
つまり、導入が完了すればVVVFインバータ制御でない車両が全て置き換えられることに。

西武多摩川線だと、新101系から東急9000系に交代します。
本稿時点ではもう少し先の話ですが、いずれ新101系も多摩川線から姿を消すでしょう。

ちなみに「サステナ車両」とは、西武鉄道が他社から譲受し、自社でリユースするVVVFインバータ制御車両を独自に呼称する呼び名。
旧型車両の直流モーターに比べて使用する電力量を約50%削減できるそうです。
VVVF化達成以後は、年間約5,700tのCO2(約2,000世帯のCO2年間排出量に相当)を削減できることに。

車両を新製する際に発生するCO2約9,400t(1両約94t×100両)と、車両を廃棄する際に発生するCO2約70t(1両約0.7t×100両)も削減できるとして、二酸化炭素排出量削減が想定されています。


さいごに

今回は、他の西武線と繋がっていないけど独特の雰囲気がある、西武多摩川線をご紹介しました。
沿線外からだったら春に来るのがおすすめ!

もともと多摩川の砂利を輸送する目的で線路が敷かれたのが、今はすっかり地元の生活路線。
ICカードにも対応しているとはいえ、全線単線、旧型車両、有人ラッチが残っているなど、鉄道ファン的に面白い要素もいろいろあります。

地元民でないと難しいかもしれませんが、自転車をそのまま持ち込んで乗車できるのも、都内じゃここならでは。
列車でお花見するのもどうでしょう。
あと音鉄的に新101系オススメです。

今回はここまで!
ありがとうございました!

参考

『日本鉄道旅行地図帳 4号 関東2』 監修:今尾恵介 新潮社・新潮「旅」ムック 2008年8月

『【図説】日本の鉄道 中部ライン 全線・全駅・全配線 第2巻三鷹-八王子エリア』 編著:川島令三 講談社 2010年5月

『知れば知るほど面白い 西武鉄道』 編著:辻良樹 洋泉社 2016年10月

『ヒギンズさんが撮った西武鉄道 コダクロームで撮った1950~70年代の沿線風景』 写真:J.Wally Higgins 解説:安藤功 アルファベータブックス 2022年2月

西武鉄道公式サイト
西武多摩川線サイクルトレインご利用案内
ニュースリリース 2023年9月26日
西武鉄道と東急電鉄・小田急電鉄「サステナ車両」を授受

武蔵野市公式サイト 鉄道連続立体交差