西武鉄道の路線でありながら他の自社線と接続していない、西武多摩川線
JR中央線乗り換え駅の武蔵境駅から是政駅まで8.0kmを結んでおり、終点の是政駅で線路が途切れています。

公的には他路線との乗換案内もないし、乗ってきた電車がそのまま折り返すだけ・・・と思いきや!
実は是政駅であのJR線と乗り換えができるのです!

今回は、西武多摩川線の終点・是政駅から実は歩いて行ける鉄道路線とその経路をご紹介します。
実用性はあまり高くないと思われるので、急ぐ用事がない時にお試しください。



多摩川沿いにある駅同士

撮影した写真の都合上、先に答えを言っちゃいます。

西武多摩川線是政駅から、JR南武線南多摩駅へ、歩いて乗り換えることができます!
しかも、道はそんなに複雑ではないので、覚えてしまえば役立つかもしれません。

次の項からさっそく歩いてみましょう。
私が神奈川県側から来ているため、南多摩駅を起点にします。

是政橋を渡れ!

南武線の南多摩駅は、出入口が南口・北口で分かれています。
是政駅を目指すなら北口に出てください。
北口に出て正面に稲城市イメージキャラクター「稲城なしのすけ」左側に東横インがあれば正解です。

南多摩駅北口から左手の歩道を歩くと、「南多摩駅西」交差点に出られます。
この大通りは府中街道です。

交差点を右に曲がると見えるのは、府中街道を多摩川対岸に渡す是政橋
全長約400m・幅25mの斜張橋になっており、中央の塔から斜めに張られたケーブルで桁を支えています。

この橋を隔てて南側が稲城市北側が府中市です。
そのものズバリな名前通り、大通りから少し外れたところに西武多摩川線是政駅が位置しています。

ですので、何も迷うことなく是政橋を渡ってください。
府中市側の遠方に東京競馬場(府中競馬場)も見えるでしょう。

ちなみに府中市方面に向かって左手に、南武線と武蔵野貨物線も並行しています。
南武線は、南多摩駅から急カーブで多摩川橋梁に進入し、次の府中本町駅まで向かいます。

武蔵野貨物線は、鶴見駅から東海道本線と分岐し、新鶴見機関区、梶ケ谷貨物ターミナルを経てここまで来ました。
土日の特定日に吉川美南駅から鎌倉駅まで結ぶ臨時特急「鎌倉」もここを通ります。



競艇場通りに入ってすぐ

さて、是政橋を渡り終えると次は、歩行者用の階段と坂道が続きます。
どちらを使っても構いません。
私は階段を降りました。

そして、「研進学院 是政駅前校」があるT字路を、府中方面に向かって右に曲がってください。
競艇場通りに入り、すぐに西武多摩川線の是政駅に到着します。

南多摩駅の改札前から北口に出て、ここまで掲載したルートを歩いて是政駅の改札前まで、私の足で約12分かかりました。
Googleマップでは約1.0kmの経路で約15分と指定され、JR・西武の公式で乗換路線とは扱われていない、隠れた乗り換え経路だといえますね。

それでも、南武線神奈川県側と中央線武蔵境駅を繋ぐ別ルートとして、覚えておくと役立つかもしれません。

渡し船時代からの要衝

1957(昭和32)年竣工時と1998(平成10)年の架け替え時に施工を担当した、株式会社フジタの公式サイトによれば、1957年の是政橋施工時には、当時としては画期的な機械化施工を、高難度の水中掘削で採用したそうです。
その結果、12脚の橋脚が完成し、全長約400mで幅7.5mのコンクリート製の橋を支えていたとのこと。

現在架かっている是政橋は、交通量増加にともない1998年に架け直し、2007(平成19)年に竣工したもの。
2011(平成23)年に橋が1本増設され、元々あった橋と合わせて4車線になりました。
それにより、府中街道の渋滞緩和に役立てられているようです。

さらに歴史をさかのぼると、橋が無かった時代には、是政の渡しという渡船場が多摩川に設けられていました。
当時から、現在の稲城市側と府中市・調布市側を結ぶ重要な渡しだったとか。
いつから存在したかは明らかになっていない(参考:稲城市ホームページ)ものの、中世末から近世にかけて作られたのではないかとされています。

しかし、1942(昭和17)年に木造の是政橋が建設されたため、是政の渡しは役目を終えて廃止となりました。
その後は先述の通り、1958年にコンクリート橋に、1998年に斜張橋に架け替えられ、2011年にそれが増設されて現在に至っています。
是政橋に近い位置に是政の渡しの石碑が立っているので、併せて見てみると良いでしょう。



そこまでの重要性は…

南武線は多摩川を渡ると立川方面に向かって北西に進んでしまいます。
だから、西武多摩川線は武蔵境・三鷹方面への隠れた近道に見えるかもしれません。
しかし、トータルの所要時間や交通費を考えると、そこまでする実用性は薄いと思われます。
武蔵中原駅を起点に、三鷹駅まで乗る場合を考えてみましょう。

JR線だけで行けば、武蔵中原駅から府中本町駅まで南武線、そこから武蔵野線に乗り換えて西国分寺駅へ、同駅で中央線に乗り換えて三鷹駅まで、だいたい1時間弱で着いてしまいます。
武蔵野線に乗り換えずとも、立川駅まで行って中央線に乗り換えると楽ですよね。
その場合もトータル1時間程度です。

立川方面とは逆に、武蔵小杉駅から湘南新宿ラインで乗り換えて新宿駅へ、そこから中央快速線に乗り換えても三鷹駅までの所要時間は1時間前後。
JRのみで完結させる場合、武蔵中原~三鷹間の大人運賃(きっぷ)は580円です。

これが、西武多摩川線経由になるとどうなるでしょう?
武蔵中原~南多摩間は約25分で320円ですが、南多摩駅から是政駅まで徒歩約12分かかります。

西武多摩川線は片道12分間隔運行で、武蔵境~是政間を乗り通すと約10分で190円かかります。
待ち時間を6分と想定し、乗車時間と合わせたら約20分。
最後にまたJR線に入場して武蔵境~三鷹間で乗車すると、待ち時間だいたい5分前後で、実際の乗車時間は2分程度、運賃は150円です。

これらを合計すると、想定されるトータル所要時間はだいたい1時間前後
合計運賃は660円です。
大して時短効果はない上に、JR線のみ利用と比べて80円高額になってしまいます。

中央線の立川以西から西武多摩川線に乗り換える場合もほぼ同じ。
例えば、日野駅から南多摩駅または武蔵境駅に向かうとしたら、武蔵境駅までは中央線で乗り換えなし!
この時の所要時間は20分前後で、運賃は320円です。

日野駅から南多摩駅へは、立川駅で南武線に乗り換えるものの、所要時間は約25分で運賃は230円。
しかし南多摩駅から是政駅まで12分は歩くことになるので、トータルでは30~40分を費やすことに。
それなら、90円高くても武蔵境駅まで行くほうが、公的に乗換路線に指定されていますし、何より歩かなくて良いので楽じゃないでしょうか?

実際にどこから武蔵境駅・南多摩駅まで来るかにもよりますが、是政橋を歩いて西武多摩川線と南武線を行き来するのは、地元民や観光利用でなければおすすめしにくい、隠れ乗り換えにとどまるでしょう。

ボートレースやお花見の近道に

では、南武線と西武多摩川線の隠れ乗り換えには何のメリットが考えられるでしょうか?
南武線・中央線に通り抜けるのではなく、西武多摩川線そのものに用があるならお得な近道になると思います。

その一つに挙げられるのは、多摩川競艇場アクセス。
是政駅のお隣・競艇場前駅は、その名の通り多摩川競艇場の最寄り駅です。
是政~競艇場前間の運賃(これが初乗り)は160円ですが、正直歩けるレベルです。
多少の時間はかかるものの、わざわざ武蔵境駅まで回り込むよりこちらのほうが近いし安いです。

二つ、新小金井~多磨間の二枚橋付近。
ここは都内有数のの名所です!

西武多摩川線を軸に、東側に都立野川公園、西側に都立武蔵野公園が、野川に沿って広がっていきます。
野川と交差する線路沿い、二枚橋の坂に桜並木が続くので、春には花見客がちらほら。
ここでは桜に加え、黄色の菜の花紫色のハナダイコンも一斉に咲くため、電車の色も相まってとても色鮮やかな花景色が見られるでしょう!

新小金井駅は武蔵境駅の隣なため、是政駅からは離れていますが、是政駅から乗れば車内からも桜・菜の花が見られます。
花見客の規模や徒歩経路もざっくり把握できるので、開花シーズンにぜひお立ち寄りください!

このような観光利用の他にも、南武線・中央線が何らかのトラブルで運転見合わせになった場合には、両線を通り抜ける裏ルートのように使えるのではないでしょうか。
もちろん沿線住民の生活路線でもあるため、他の西武線と離れていても、西武多摩川線は必要不可欠な存在なのです。



さいごに

今回は、西武多摩川線の終点・是政駅と実は歩いて乗り換えできちゃう、JR南武線南多摩駅との乗り換え経路などをご紹介しました。
しつこいようですが公式な乗換路線ではないことをご留意ください。

是政駅と南多摩駅を隔てている多摩川。
そこに架かっているのは是政橋。
つまり、是政橋を渡って10分強で両駅間を行き来することができます。

通勤利用ではまずおすすめできませんが、多摩川競艇場アクセスや、桜の開花シーズンに二枚橋・野川公園・武蔵の公園を訪れる場合には、西武多摩川線が役に立つかもしれません。

西武多摩川線自体もかなり面白い路線ですので、また別の機会に詳しく書ければな~と。
今回はここまで!
ありがとうございました!

参考

『【図説】日本の鉄道 中部ライン 全線・全駅・全配線 第2巻三鷹駅―八王子エリア』 編著:川島令三 講談社 2010年5月

東京都稲城市公式ホームページ
多摩川の渡し
PDF 文化財ノートNo.30 多摩川の渡船場

株式会社フジタ 是政橋|実績紹介