JR東日本の中央線(中央快速線)では、E233系へのグリーン車導入に向けた準備が進められています。
その間、運用できる車両が不足してしまうため、元・地下鉄千代田線直通車両209系1000番台がその不足分を補っています。

本来なら、中央線での普通列車グリーン車のサービス開始は2023年度末に予定されていましたが、世界的な半導体不足が原因で、その予定が1年は遅れるとのこと。
そのため、2024年5月時点で209系1000番台は運行を続けています。

そこで今回は、209系1000番台の特徴、中央線に移った経緯、(公式情報ではありませんが)引退時期の目安を見ていきましょう。



JR東日本通勤電車の礎たる209系

209系自体は、1993(平成5)年に登場した通勤型車両です。

それまでの車両から車体・台車・主制御回路などをすべて見直し、JR東日本の通勤・近郊型車両の基礎となりました。
先に試作型として901系が製造(後に209系に編入)され、その量産型として209系が製造されました。
「コスト半分・価格半分・寿命半分」と、どこかで聴いたことがある人もいるでしょう。

実際のところ、ここでいう「寿命」とは減価償却費的な意味です。
税法上の鉄道車両の減価償却期間である13年間、大規模な補修を行う必要がなく、その段階で廃車になっても経営に影響がないように「寿命半分」をうたっていたといいます。
生命的な意味での寿命半分ではないので、2024年5月現在も209系の多くが機器更新された上で活躍しています。

当初、京浜東北・根岸線に投入された0番台は、今は2000番台・2100番台として房総エリアに。
一部はE131系に置き換えられたものの、状態の良い2編成が伊豆急行に譲渡され、伊豆急行3000系「アロハ電車」として活躍中です。

他にも、拡幅車体の個体が京葉線・武蔵野線八高線・川越線にいますし、なんだかんだで209系は首都圏の各所で見ることができる電車ですよ。
南武線で使用されていたうちの1編成を「のってたのしい列車」に改造した「BOSO BICYCLE BASE」(B.B.BASE)も、209系の仲間。

なんなら、激レア試験車両「MUE-TRAIN」も209系の改造車両です。

地下鉄直通対応の209系1000番台

そんな中で209系1000番台は、常磐線各駅停車・東京メトロ千代田線直通向け車両として、1999(平成11)年に登場しました。
10両編成が2本存在し、2018年まで常磐線・千代田線で活躍していました。

他のグループとの違いにして最大の特徴は、地下鉄への乗り入れに対応した仕様になっていること。
前面には緊急脱出用の非常扉が設けられ、地下鉄で使用する保安装置を搭載し、車体寸法も地下鉄に合わせた設計になっています。
ストレート車体で、先頭車両の一部窓が若干短くなっています。

画像:写真AC

そして、地下鉄は短い駅間距離を走行するため、高頻度で何度も加速・減速を繰り返す特徴もありますよね?
他のグループがモーター:トレーラーの比率4:6または4:4なのに対し、この1000番台はMT比6:4。
モーター車が6両になり、地下鉄の環境にもついて行ける高加速車両となりました。

常磐線・千代田線にE233系2000番台が投入され、2018年にE233系で統一されたのにともない、209系1000番台は2編成とも撤退しましたが、2019年から中央線(中央快速線)で運行開始
ラインもエメラルドグリーンからオレンジに改められ、平日を中心に運行しています。

2編成しかないので一見珍しいものの、運用はほぼ固定されているため、一度見つければ狙って乗りやすいでしょう。



中央線E233系にグリーン車を導入するまで

時期的に、209系がE233系で置き換えられるのは不思議なことではありません。
京浜東北・根岸線も209系からE233系1000番台に置き換わり(2010年)、南武線では205系もろともE233系に統一(2017年)。
そして常磐線・千代田線でも209系(もっと前に203系・207系もいた)からE233系へ。

では、209系1000番台はなぜ中央線に移ることになったのでしょうか。
率直な答えは「中央線普通列車グリーン車を導入する準備のため」です。

JR東日本は、2015年2月4日のニュースリリースにて「2020年度に中央線にもグリーン車を導入予定」と発表していました。
中央線で運行中のE233系0番台に2両ずつグリーン車を組み込むことで、主要5方面の全普通列車にグリーン車が導入されることになります。

グリーン車サービス開始後、E233系は12両編成になり、4・5号車(東京方から4・5両目)がグリーン車になります。
青梅線・五日市線の編成はグリーン車なしで従来通りです。

グリーン車を組み込む編成はその間運用に入れなくなるため、足りない編成数を補うためのピンチヒッターとして、209系1000番台が中央線で走行するようになりました。

ところが、2018年4月3日のニュースリリースでJR東日本は、バリアフリー等の他施策との工程調整関係箇所との協議等により、サービス開始時期を2023年度末に延期することを発表。
併せて、利用者サービス向上を目的に、中央線E233系にトイレを新設するとも発表しました。

このため、209系1000番台は2023年度末までは運行を継続。
E233系のトイレは普通車の4号車(グリーン車連結後は6号車)に設けられ、2019年度末から使用可能になりました。

本来なら2023年度末で209系1000番台の役目は終わっていたはずでしたが、あれが原因でまた延期させられることに…。

世界的半導体不足で奇しくも延命

2022年4月3日、JR東日本の、2022年度設備投資計画に関するリリースによれば「グリーン車新造が世界的な半導体不足の影響を受けており、2023年度末を予定していたサービス開始が少なくとも1年程度遅れる見込み」とのこと。

新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延で物流が低速化したことや、生活様式の変化に伴って電子機器の需要が上がったことなどが要因に挙げられます。
このようなJRではどうしようもない事情により、中央線の普通列車グリーン車は再延期を余儀なくされました。

だからなのか、2024年3月16日ダイヤ改正から1週間程度、209系はほとんど中央線に姿を見せませんでしたが、改正日から1週間程度で運用に復帰し、2024年5月時点で第一線で活躍しています。

とりわけこの4月は、桜と209系1000番台を同時に撮れるたぶん最後のチャンスだったと思われます。
立川~日野間の残堀川沿いには、私を含め多くの撮影者が訪れていました。

このように、常磐線・千代田線のE233系2000番台による統一と、中央線E233系へのグリーン車導入にともなう準備のために、2019年から中央線に転属した209系1000番台。
本来の予定通りなら短命だったかもしれませんが、工程調整や半導体不足などの要因で2024年に至るまで残り続けています。

というか、209系を使わずとも同2編成の運用にE233系をあてて何事もなく運用できているなら、もうグリーン車のほうも準備が整いつつあると見て良いのかもしれません。



209系1000番台はいつ引退?

そうなると、209系1000番台はいつ引退するのでしょうか?
もはやいつ動きがあってもおかしくないでしょう。

JR東日本の公式発表ではないことをご容赦ください。
「障がい者の生活保障を要求する連絡会議」(障害連)で参与・事務局責任者を務める太田修平氏が、2023年6月15日、自身のエックスで「209系は来年の秋まで走る予定との事でした」と投稿していました。

「2023年時点での来年」なので、2024年秋までと考えて良いでしょう。

太田氏が通勤のため日野駅で降りた際、いつもと違う車両(たぶん209系)だったためにホームとの段差が高すぎ、駅員の介助があったのに転倒しかけた、ということで障害連がJRに要望書を送ったようです。
その返答で209系について触れられたのではないかと、私は察しています。

公式発表ではない割に情報源も現状これだけですが、この通りになれば、209系1000番台は2024年の9~11月のいずれかで今度こそ運用から外れると思われます。
乗車・撮影は安全・マナーを守ってお楽しみください。

JR東の三菱GTOは今やこれだけ!

それにしてもこの209系1000番台、たった2編成しかいないだけなのになぜそんなに人気なのかと、思う人もいるのではないでしょうか?

京浜東北・根岸線沿線で209系を見て聞いて育った私に言わせれば、209系1000番台には、2編成だけという希少性に止まらない人気の理由があります。
それは、VVVFインバータ制御の音です!

209系列は登場当初、三菱電機製のGTOサイリスタ素子VVVFインバータ制御装置を搭載していました。
GTOは「Gate Turn Off」といいます。
耳に残りやすい音程で、出発時・停車時に独特な変調を繰り返す特徴があり、音が好きな鉄道ファンに大好評!
この音が、209系1000番台で未だ現役

現在残っている209系のほぼ全てが、GTOより静かなIGBT素子VVVFインバータ制御に更新されたため、車両の延命と引き換えに音の個性が控えめになりました。
他の形式も、大半がIGBT素子やSiC(MOSFET)素子VVVFに換装されていますが、209系1000番台ならGTOサウンドを聴ける

電車の音に着目した有料イベント「録音専用列車」(主催:JR東日本我孫子運輸区)でも、2024年1月28日開催回では209系1000番台が録音列車として使用されました。
ちなみにこの時常磐線を使用したため、「209系1000番台が5年ぶりに里帰りした」とも言われました。

1000番台以外の209系(同じVVVFを使っていたE217系も701系も)はIGBTに更新済みなので、1000番台がいなくなることは、JR東日本から三菱サイリスタGTOの音が消滅するのと同じこと。

このように、209系1000番台はJR東日本の公式イベントで主役に抜擢されるほど個性的な音を令和の現代に残しており、多くの鉄道ファンに親しまれている車両だと私は思います。
もちろん私もめちゃ好き。



さいごに

今回は、2018年まで常磐線・千代田線で活躍し、翌年中央線に移った209系1000番台のお話でした。
E233系にグリーン車を連結するために、運用に足りない分を補うピンチヒッターみたいな感じで中央線に転用された同車は、諸事情が重なった結果、2024年までVVVF未更新のまま残っています。

JRの公式発表ではないものの、2024年秋に運用を外れるらしいという投稿も出ました。
その通りになれば、209系1000番台を見られる、聴けるチャンスは確実に少なくなっています。

さすがに一般的な快適性はE233系のほうが上だと思いますが、209系1000番台は、1990年代に製造された通勤電車の面影を良く残しています。
記録を取る場合は安全・マナーを守ってお楽しみくださいね。

今日はここまで!
ありがとうございました!

参考

JR東日本公式サイト
車両紹介 209系

ニュースリリース 2015年2月4日
PDF 中央快速線等へのグリーン車サービスの導入について
2018年4月3日 PDF 中央快速線等へのグリーン車サービス開始時期および車内トイレの設置について
2022年4月27日 PDF 2022年度設備投資計画

JRE MALL Media 2024年5月22日更新
【イベントレポート】録音専用列車イベント第三弾!209系1000代を使用したイベントのこだわりに迫る!常磐線の録音専用列車イベント

Wikipedia JR東日本209系電車

関連実績

マイナビニュース 鉄道カテゴリ
2022年5月1日 伊豆急行3000系「アロハ電車」がデビュー – 元JR東日本209系を改造

東洋経済オンライン 鉄道最前線
2022年4月30日 伊豆急、JR通勤車を「ハワイアン」に改造した狙い

 

 

 

 

 

おや、こちらに気づいてしまいましたか…。
いいえ悪いことではありません。
むしろここまで見てくださり、ありがとうございます。

先に述べた通り、209系1000番台は多くの鉄道ファンの注目を集めていることでしょう。
その一方で、鉄道ファンを自称するカメラマンの行き過ぎた行いも目に余ります。

先ほどの「録音専用列車」イベントが開催された日、209系を目当てに訪れた10~20代くらいのカメラマン数人が(おそらく撮影目的で)線路内に立ち入ったことで、録音列車はもちろん、周辺列車にも影響が出る事態が発生しました。
また、常磐線の駅では同日、悪名高いオタクとその取り巻きが騒ぎまくっていたという情報もありました。

それらが原因で「本線での『録音専用列車』イベントの開催が難しくなった」と、公式イベントレポートで報じられています。
こんなにマニアックでステキなイベントが、一部の心ない自称ファンによって開催できなくなったとのこと。

みだりに鉄道用地内に立ち入ることは、鉄道営業法第三十七条によって禁じられており、破ると1万円の科料に処されます。
鉄道会社や一般利用者に実害が出れば、当該、鉄道会社から損害賠償を請求される可能性も出てきます。
「ちょっとだけ」「どうせバレないw」など、軽い気持ちでラインを踏み越えれば、待っているのは到底払えないレベルの賠償金額。

線路内に立ち入って撮り鉄をする、人目を省みず駅などで身内で騒ぐなど、鉄道会社・一般利用者に迷惑をかける行いは絶対にしないでください。
鉄道ファン同士、皆が楽しく、安全に趣味に励んでいられるよう、どなたも何卒お願いいたします。