KATO旧製品オハ31形旧型客車を、江若鉄道風の塗装に塗り替える模型制作を進めています。
前回は初回ということで、関連する実物の概説と、車両の分解水洗い車内マスキングまでやりました。

今回は車体の塗装をやります!
一般的にはスプレー缶またはエアブラシが使われますが、本稿では私の制作工程を通して、スプレー塗装のやり方を解説していきます。
サフ吹きやIPA(イソプロピルアルコール)漬けは本稿ではやらないのでご了承ください。

前回の制作工程をまだご覧になっていない場合は、ぜひそちらからご覧ください。

それではスタート!


前回のおさらい

まずは前回のおさらいから。
分解できる限りのパーツを全て分解しました。
接着剤でガチガチに留まっていたホロはそのままにして、後で筆塗りすることにしましょう。

塗装前には必ず、車体に付着してたであろう油分を中性洗剤で洗い落としておくこと。
したら、車内に塗料が吹き込まれないように、内側から窓周りをマスキング
あればウレタンなどで内装全体を塞いでしまいましょう。

最後に塗装棒に車体を取り付ければ準備完了!
KATOのオハ31は車体と内装が一体成形なので、余りものの割りばしとスチレンボードで塗装棒を自作しました。

市販のキットでは、塗装工程に入る前に、バリ取り、押し出しピンやパーテーションラインの除去など入念に行い、ヤスリ掛けをして接着面・継ぎ目を整える必要があります。
さらに、本塗装の前にサーフェイサー(下地塗料)を拭き付け、細かい傷を埋める、謎に発生した凹凸を処理するなど、外観を美しく仕上げるために手間暇かけるほうが良いです。

しかし、今回はすでに塗装されている完成品を塗り替えるだけなので、よほど車体が傷ついているわけでない、除去するモールドもないなら、これらはやらなくても良いでしょう。
冒頭で挙げた通り、本稿では缶スプレーでオハ31を塗装していきます。

白3号で下地を整える

それではスプレー缶で色を吹き付けていきましょう。
まずは下地の色を整えます!

「…え、下地って何?このまま本来の色を拭いたらダメなの?」って思いませんでしたか?
そうしたい気持ちもありますが、これには明確な理由があります。

今回は、元から塗装されている車両の上に別の色を塗装することになります。
しかもオハ31の元々の塗装はぶどう色1号、言うなれば暗めの茶色です。
もし、この上にいきなり別の色を吹き付けたら?
新たに塗った色の隠ぺい力が弱くて、下の色の暗みが表に出てしまったら?

望んだとおりの仕上がりにならないかもしれません。
せっかく苦労して買い集めた中古品なのに、改造に失敗したから買い直し…なんて嫌ですよね。

だからこそ、サーフェイサーを使わないにしても下地の色をいったん整える必要があるのです。
そこで使うのが、グリーンマックス「鉄道スプレーNo.37 白3号」!

まずは白の塗料を車体全体に吹き、本来吹きたい色の色味を良く発揮できる下地にしましょう。
塗装対象を取り付けた塗装棒の下を片手で持ってください。

必ずスプレー缶はよく振ってから使用します。
溜まった塗料が吹き始めに一気に出る可能性があるので、いきなり塗装対象に吹かず、要らないダンボール箱の面に試し吹きしてから塗っていきましょう。
色を吹き付ける時は、塗装対象から20~30cm程度の距離を取り、腕を一方向にスライドさせながら「シュッ!」とひと吹き!

スプレー缶のボタンを押し続けている間超細かい粒子が放射状に拡散されます。
人体に有害な成分を含むので、屋外など換気の良い環境で作業してください。
また、雨が降ってる日や止んだ直後など、湿度が高い日の作業は避けるのが無難です(とくに屋外)。
屋内に塗装ブースを設けられる場合は、その限りではありません。

このようなスプレー塗装のメリットは、初期投資がかかりにくいこと。
1缶だいたい770円前後で手に入るので、エアブラシの初期投資より圧倒的に安く、初心者も簡単に始められます!
必要な色が少なければなお安上がりかも。

その一方、吹き付け前の塗料を自分で調色できません
スプレーを吹くと広範囲に粒子が飛ぶので、実は塗装対象に吹き付ける以上の塗料をロスしてしまいます。
エアブラシのように細く吹き付けることもできません

何度もスプレー缶を買うとさすがにコストがかかるので、自前で頻繁に塗装する場合はエアブラシを導入したほうがトータルコストは安く済むかもしれません。

ポイントは薄く重ね塗り

車体の長手方向だけでなく、上下左右いろんな角度から塗料を吹き付け、薄くまんべんなく重ね塗りしていきます。
それを側面2面・妻面2面行い、3両とも塗装し、まず1回目の塗装を終えた様子がこちら。

全然色乗ってないじゃん!下の茶色が隠せてないじゃん!
いえいえ、1回目はこの程度で良いんです!

塗装のポイントは薄く塗り重ねること。
この薄吹きを2・3回繰り返すと、白の色味がだんだんハッキリ表れ、下の茶色がだんだん見えなくなっていきます。
最後に吹いた塗料を乾燥させてから2回目・3回目吹きに移ってください。
天気・季節・住んでいる場所によりますが、この程度の薄吹きなら1~2時間もあれば乾くと思います。

逆に、一回で済ませようとして塗料を吹きすぎると厚塗りになってしまいます。
そうすると表面の塗膜が厚くなるため、細かなモールドを埋めてしまうかも。
乾燥に余計な時間がかかり、その間に余分な塗料が下に流れて溜まって落ちて…と、良いことがありません。
時間をかけて薄く塗り重ねることを心がけましょう。

乾燥には、塗装棒を差しておける台、もしくは適当なダンボール箱に割りばしが途中で止まる程度の穴を開けるのも良いでしょう。

薄く塗料を塗り重ね、3回目の塗装を乾燥させました。
1回目に吹いた時は下のぶどう色1号を隠せてなかった白3号も、3回塗り重ねればこうなります!

旧型客車の外観をしっかり白く着色できました。
これなら、次の色が十分に持ち味を発揮できるでしょう。
めっちゃ粗探しすると元の色が若干見えるものの、下地ならこれで十分じゃないかな。

ところで、今回の塗装工程は、元から塗られている色を落とさずに新しい色を塗り重ねています。
今回のような塗装済み完成品をまったく別の色に塗り替えるとしたら、元々の色を落としてから塗り替えるほうが良い場合もあります。

鉄道模型の塗装をはがす時には、ガソリンスタンド、ホームセンター、ディスカウントストアで「水抜き剤」として販売されているIPA(イソプロピルアルコール)がよく使われますね。
しかし、IPAは揮発性が高い液体で、当然人体に有害です。
保存・扱いが難しい上に、それを間違えれば事故を招きかねないので、正直使いたくなかったのです。

同時に「あえてIPAを使わずに上から塗り重ねたらどうなる…?」という疑問が湧いて試してみたくなり、本稿のように直接塗り重ねる方法を採りました。
今のところ順調ですので続きをやりましょう!


大本命の京阪ダークグリーン

では、下地にした白3号に新しい色を吹き付けていきます。
この2色目が大本命です!

使うのは「鉄道スプレーNo.33 ダークグリーンA」。
価格・名称改定でこの名前になりましたが、改定前は「京阪ダークグリーン」として販売されていました。
京阪電車の旧塗装の下半分がこの色です。

先ほどと同じように、塗装対象から20~30cmほどスプレーを離し、複数の角度から一方向ずつ「シュッ!シュッ!」とうすーく色を乗せていきましょう。
1回目吹きがこんな感じです。
まだ下地の白が隠しきれていませんが、1回目はこれでいいんです。

1時間以上は取ってしっかり乾燥させましょう。
そして、同じように2回目を吹いてまた乾燥させ、3回目吹きを終えたものがこんな感じ!
ダークグリーンがしっかり発色できています。
良い感じではないでしょうか。

ちなみに、江若鉄道の写真は手持ちの資料だと白黒写真が多く、インターネットの画像検索でもカラー写真は少なかったです。
南洋物産が販売している江若鉄道オハ1950形アクリル板キットの指定塗料が「京阪ダークグリーン」だったので、思いっきりそれを参考にしました。

これが乾燥したら次の工程に進みましょう!
今塗装したとおり、実車(オハ27)も単色塗りなので、これ以上別の色を塗る必要がないのです。
マスキングからの塗り分けもしなくて良いので、個人的には挑戦しやすかったかなぁと。

貫通ホロを筆でタッチアップ

ところで一つ、分解したかったけど全くできなくて、やむを得ず一緒に塗ってしまった部品があったのを忘れていませんか?

そう、貫通ホロです。
裏から接着剤でガチガチに留められてて、外れる気配がしなかったので、破損のリスクを考えてこのままにしていました。
車体もろとも良い緑色が塗れています。

しかし、さすがにホロまで緑色のまま仕上げてしまうのはしのびない。
こんな時は、筆塗りでカバーしてあげましょう!

塗り面積の小さい面相筆を用意しましょう。
アクリルガッシュ「ジェットブラック」を、塗料1:(精製)水0.5程度で希釈し、ホロに塗ってください。
1回程度ではそんなに色が乗らないので、2回くらい重ね塗りして乾燥させればこんな感じ!
写真だと見づらいですがちゃんとホロは黒く塗れています。

もし他の箇所に色を付けてしまっても、アクリルガッシュは水で濡らした綿棒で落とせるので心配無用!
これがあまりにも便利なので、細かい部品のタッチアップにはよくアクリルガッシュを使っていますね。
鉄コレの内装塗りにも重宝してます。

私がアクリルガッシュを好んで使っているだけなので、持っているなら溶剤系ビン塗料を使うと良いでしょう。
その際のタッチアップには水性アクリル塗料(水性ホビーカラー、タミヤアクリルなど)をおすすめします。

水性アクリル塗料は、ラッカー塗料(鉄道カラー、Mr.カラーなど)に比べて塗膜は弱いですが、水で洗えて匂いも弱く、扱いやすいのがポイント!
専用うすめ液も販売されています。
車体に使ったGM鉄道スプレーはラッカー系なので、その上からアクリル系うすめ液を使っても車体の色を侵さずに済みます。


クリアコートで表面保護

全てのスプレー塗装・タッチアップができたなら、ついに塗装が完成!…の前に。

もう一つやっておくべき超重要な工程があります。
表面保護です!
これから何度触っても大丈夫なように、透明な保護塗料で車体をコーティングしてあげましょう!
表面保護用のクリアコートも、模型メーカー各社からさまざまな種類が販売されています。

私はよく、水性トップコート(クレオス)を使っています。
塗料の種類やインレタ・デカールを問わず使いやすいので、水性塗料を使うモデラーには特にありがたい一品です。
もちろん効果もちゃんとあります。

今までのスプレー塗装と同じように、乾燥を挟みながら2回ほど薄めに重ね塗りしてください。
色付きの塗料と違って透明なので、ちゃんと吹き付けできているかすごく分かりにくいです。
吹いた直後の表面のテカリや、塗料の匂い(ラッカーよりマシだけど推奨しにくい)で判断すると良いかもしれません。

上の写真でも正直分かりにくいですが、半光沢の水性トップコートを2回塗りしました。
これで、先に貼っておいた車番・社紋デカールを侵さずに仕上げることができました。
掲載の都合で順番が前後しましたが、インレタ・デカールはクリアーを吹く前に貼り付けてくださいまし。

模型の車体に使うクリアコートは、半光沢がちょうど良さそうですね。
保存車両や阪急電車など、ツヤッツヤな車体を再現するには光沢を使うと良いでしょう。
屋根・床下機器の使用感を出すなら、場合にもよるけどつや消しを考えても良さそう。

表面保護のクリアコートも、メーカーや、ビンかスプレーかでいろんな種類があって正直迷うかもしれません。
困ったらとりあえず水性トップコートで行きましょう。

緊張のマスキングはがし

車体を塗り替え、車番・社紋を貼り付け、水性トップコートによる表面保護も全部できました。
これで外観の塗装は終わりです!
いよいよ内側から貼り付けたマスキングテープをはがす時が来ました。

これがいわゆる「めくりの儀」!
とはいえ、2色以上の塗り分けは今回やっていないので、変に気負うことはないでしょう。

塗ったばかりの塗装にダメージが入らないよう注意し、ピンセットでテープの端に取っ掛かりを作り、そこからゆっくりはがします。
ウレタンを詰めていた場合、先にそれを取り除いてください。

塗料が乗った部分が窓の空白から外れる瞬間、謎に一気に取れた感覚がしますが、だからって焦ってはいけません。
テープ周りの塗料を持っていかないよう、慎重に進めましょう。
変に気負う必要はないけど、やっぱり緊張が走ります…。

全部はがせた!
パッと見車内に吹き込んだ塗料はなく、窓内側のマスキングは成功じゃないでしょうか!
一応、側面上部のフチなどに色が付きましたが、後で屋根を組み戻せば隠れる部分なので気にしなくて良いです。

マスキングを剥がした後、窓周りに塗料のカスがくっついて残っていました。
バリ・カスが残ると外観及び組み立ての支障になり得るため、細目のヤスリで削るまたはカッター・デザインナイフでしごくなどして除去しておきましょう。

塗装済みの完成品を別の色に塗り替えるにしても、薄く吹いては乾かしの繰り返しで結構時間がかかります。
それでも、丁寧に着実に進めていけば必ず良い模型制作ができるはず。
完成品の塗り替えだけでも学べることは多いので、換気の良い環境でぜひ挑戦してみてください。


さいごに

今回は、KATOのオハ31旧型客車を江若鉄道風に塗り替える制作工程の2回目。
車両のスプレー塗装から表面保護までのやり方を解説してきました。

ちなみにマスキングを解いた後、アクリルガッシュの筆塗りで内装も塗っちゃいました。
アクリルガッシュの筆塗りで遮光と内装塗りを兼ねた解説を以前にやりましたが、今回は床も座席もやったのでそれなりに本格的ですよ。

単に色を塗り替えただけでも、以下の順番・回数で進めることになりました。

  1. 下地塗装:白3号(3回塗り)
  2. 本塗装:京阪ダークグリーン(3回塗り)
  3. 表面保護:水性トップコート半光沢(2回塗り)

どれにおいても薄く塗り重ねることが大事!
1回ごとにしっかり乾燥させ、湿度の高くない日に作業しましょう!

市販のキットなら、ここに板状パーツの組み立て、接着面・継ぎ目の処理など、サーフェイサー吹きなど、さらに手間をかけることになるでしょう。
ですが、焦らず確実に進める重要性が身に付けば、必ずや良い鉄道模型が作れるはずです。

なお、塗装機材がエアブラシの場合、スプレー塗装とは勝手が異なります。
私はまだ扱える環境にはないので、恐れ入りますが他の方を参考になさってください。
エアブラシを持っていない人や、自前での塗装をあまりやらない人にスプレー塗装は向いているかもしれません。

次回は、インレタの水転写化とデカールの貼り方について解説します。
まだご覧になっていない場合はこちらから前回の制作工程もぜひ!

それでは、本日はここまで!