JR東海・静岡エリアを少し進んだ、東海道本線由比~興津間には、古くから難所と呼ばれた薩埵峠(以下・さった峠)が通っています。
眼下に通る東海道本線・国道1号線・東名高速道路と、そのすぐそばに迫る駿河湾
正面遠方には富士山がそびえ立つ、『東海道五十三次之内』(歌川広重)に描かれたほどの景観を望める絶景スポットです。
鉄道撮影地としてもおすすめ

しかし、さった峠は由比駅・興津駅の中間に位置するため、駅から歩くにもかなり時間がかかります。
185系C1編成のツアー列車が2024年10月5日に走行した際、私は雨の中この峠を歩いて越えましたが、納得できなくなって翌日またさった峠に来ました。
その際、興津駅から由比駅に向かって峠を歩き、東海道本線の撮影にも励みました。

今回は、東海道本線興津駅からさった峠ハイキングコースへの歩き方を実演します。
由比駅からさった峠への行き方はすでに公開していますので、そちらと併せてご覧ください。
では行きましょう!


徳川家康ゆかりの宿場町から

さっそくですが本稿のスタート地点は興津駅
東海道17番目の宿場町・興津宿です。
正確には、興津宿跡は清水方に歩いて約15分の清見寺(せいけんじ)付近に残っています。

日中、この駅から熱海方面は20分に1本
浜松方面は、浜松行きと島田行き(始発)が1本ずつ交互に運行し、静岡駅近辺の10分間隔運行を成しています。
特急「ふじかわ」や「ホームライナー」は停まりません。

徳川家康とも縁の深い清見寺は、国の重要文化財の一つ。
今川義元の人質だった幼少期の家康はこの寺で教育を受け、後年に隠棲した際も何度も通っていたといいます。
庭園の臥龍梅も家康ゆかりの梅で、五百羅漢群像は文学にも登場したことがあるそう。

また、江戸時代に東海道を往来していた朝鮮通信使の宿泊を受け入れていたことから、それらにまつわる資料も残されています。
総門に掲げられている「東海名區」(とうかいめいく、區=区)も当時の通信使による筆だそう。
その総門から山門までの間の切通しに東海道本線が通っています。

画像:写真AC

それでは興津駅からさった峠に歩いていきますが、今回は晴れたのでハイキングコースに行きます!

駅の自動販売機や、駅前の和菓子屋で買い物できる他、由比駅側と違って通り道にもコンビニがあります。
そのため、食料・消耗品調達は道中のコンビニで行っても構いません。
私は甘いの大好きなので駅前で饅頭買っときました。

興津駅からは複数の道がありますが、分かりやすくするために国道1号線に出ます。
駅の正面に伸びる道をまっすぐ進み、「興津駅前」交差点に出てください。

そこから由比方面(駿河湾を正面に左側)に向かって国道1号線を歩いていきましょう。
しばらくの間は歩道が確保されているので安心して歩けます。
歩き始めてまもなくファミリーマートを通るので、買い物するならここもアリです。

ファミリーマートを通り過ぎて約5分、歩道の反対側にたい焼き店が出てきます。
ここのたい焼き、薄皮パリッパリのあんこギッシリでめちゃ美味しい!

興津のたい焼き店のすぐ近くにローソンもあります。
ハイキングコースへ向かう場合、このローソンが峠前最後のコンビニになりますので、ここまでで食料・消耗品の調達を済ませてください。
東名高速側出入口に向かう場合、歩くのにもっと時間かかりますが、興津川右岸通り外れのセブンイレブンにも立ち寄れます。

ローソン前を通り過ぎると、遠方に「駿河健康ランド」が見えてきます。
と同時にガソリンスタンド前に来ました。

ここからは国道1号線を離れ、緑色の歩行者スペースのある脇道に外れましょう。
歩道ではなくなるので車に注意!

興津川橋梁も有名鉄道撮影地

ガソリンスタンドから5分程度で、興津川橋梁(浦安橋)まで来ました!
興津駅前から数えると徒歩30分前後です。

興津川橋梁も東海道本線静岡エリアの撮影地として有名で、主に下り列車(静岡・浜松方面)がよく撮れます。
2024年10月現在、211系5000番台が315系に置き換わりつつあるため、185系ツアー列車の前後に211系を撮る人も多かったです。

上り列車(富士・熱海方面)を撮る場合、橋を歩いて対岸に渡りましょう。
ただし川幅が広く、堤防に上り下りするにも時間がかかるので、早めに動かないと撮影対象に先を越されてしまいます。

ここからさった峠への行き方は2通り。
一つは踏切前まで直進してハイキングコース入口に上がるルート。
これはこの後ご案内します。

もう一つは、東名高速道路横の一般道から山中の舗装路を上がる経路です。
車はこちらからさった峠展望台付近の駐車場に上がると良さそう。

浦安橋を渡り、岩城人形横の通りを川沿いに進んだ先で東名高速と交差します。
東名高速の高架下に来たら、高速道路に沿って山中に入っていってください。

ただし、この経路で眺望地点まで行こうとすると相当な遠回りになります。
車ならまだしも、徒歩だとしんどいです。
徒歩ならハイキングコース側に行くのをおすすめします。


踏切から坂を上がり山道へ

では引き続き、さった峠ハイキングコース入口まで歩いていきます。
浦安橋を渡った後も、そのまま岩城人形前を直進してください。

岩城人形前から5分程度で、左手に東海道本線の洞(ほら)踏切が出てきます。
この踏切を渡りましょう。

踏切を渡った後は、トタン張りの小屋がある左に進んでください。
右は行き止まりです。

急傾斜地崩壊危険区域の看板から、急な上り坂になります。
この看板は、この一帯で水の放流、切土・盛土、伐採や工事を行う場合に静岡県知事の許可が要る、という説明なので一般歩行者にはそんなに関係ありません。
とはいえ、防壁のない部分も増えて来るので気を付けて上りましょう。

海岸寺百体観世音前の階段も構わず直進!

この時点でだいぶ標高が上がっています。
ここで駿河湾を見てみるとこう!
伊豆半島まで望めるようになります。

坂を上がりきったら、ビニールハウスがあるあたりに交差点があるのでもう少し進みましょう。

そしてビニールハウス横、「薩埵峠」と書かれたポスト側に構える往還坂を上りきれば、さった峠ハイキングコースの興津駅側の入口です。
公衆トイレ、駐車場、墓地があり、墓地の奥に山道への階段があります。

私の足で、興津川・浦安橋からハイキングコース入口まで約25分興津駅から約1時間10分かかりました。
実は一度道を間違えたので10分ほどロスしたけどね。

ここから先はガチな山道に変わるため、露骨に道が険しく、通り道のギリギリまで木々が生い茂るようになり、アスファルトの舗装も終わり。
ですが、由比駅より興津駅のほうが眺望地点には近いです。

東海道本線と富士山と駿河湾の絶景まであと少し!
水分補給・トイレ休憩虫よけ対策などを行ってから進みましょう。

かつての中の道を上がれば絶景が

古来より、東の箱根峠越え、西の鈴鹿越えと並ぶ東海道の難所として知られたさった峠。
江戸時代の時点で、この峠を越える道は3つ。
海側から順に、下の道・中の道・上の道があったそうです。
このうち、1655(明暦元)年、来日する朝鮮通信使を迎えるために山腹を切り開いて街道にした「中の道」が、現在のさった峠ハイキングコースにあたります。

そんな、さった峠ハイキングコースの興津駅側は、大量に落ち葉が溜まった土剥き出しな段差に丸太を固定して造られた階段に差し掛かります。
道は人間ひとり分の幅しかありません。
そして転落防止柵はところどころ途切れています。
足元に要注意の上、確実に進んでください。

くり返しますね?
足元・周囲に本当に注意してください。
今歩いている道は二人と並んで歩けないほど狭いのに、転落防止柵にも基本頼れません。

「こんなところを歩いて本当に大丈夫なの?」
と心配になるほど周りは鬱蒼としていますが、階段を上がり始めて5分もなく、枝の分かれ目から駿河湾が開けてきます。
あともう少し上がっていけば・・・!?

着きました!
ここが、さった峠の清水市(現・静岡市清水区)指定眺望地点です!
私の足でこの眺望地点まで、ハイキングコース入口から約5分興津川・浦安橋から約30分興津駅から約1時間15分かかりました。

写真の標柱がある地点にはベンチもあるので、ここで座って休憩することができます。
周囲の安全を確認しつつ、荷物を降ろして腰も降ろして、しばし東海道随一の景観を堪能しましょう。


名勝より富士山・駿河湾を望む

さった峠から見られる絶景としては、やはり展望台から望む富士山でしょう。
そして、その下をまっすぐ走って来る東海道本線国道1号線、その上をオーバークロスして分かれていく東名高速道路と、それらのギリギリまで迫る駿河湾
昔も今も、この絶景に魅せられる人々が後を絶ちません。

2024年10月時点では、展望台への通路の一部崩落が解消されておらず、展望台へは行けないまま。
しかし、その近い位置に迂回路が設置されたので、展望台からの眺望に近い風景は見られます。

そして、この清水市指定眺望地点も山の向こうに富士山を望める、眺望バツグンの景勝地です!
東海道本線と富士山と駿河湾を全部目に焼き付けることができます!

私が行った時は、晴れてるのに厚い雲に阻まれてしまい、富士山は見られませんでした。
富士山までしっかり映ると下のようになります!
展望台から見る時とは違った眺めになるでしょう?

画像:写真AC

長い歴史の中で、東海道本線、国道1号線(富士由比バイパス)、東名高速道路という近代的な交通インフラが生まれるも、富士山と駿河湾は古来よりここに存在し続けています。
時代を越えて共有できる眺望景観として、将来にわたり大切に守っていくべき重要地点であることから、2001年10月、清水市(当時)指定眺望地点に指定されました。

東海道本線の俯瞰もおすすめ

鉄道風景写真を撮るなら、あえて富士山を画角に入れないのも手です。

意外なことに、由比~興津間で列車に乗っても防波堤続きで海はあまり見えません。
こんな風に峠の上から俯瞰してみると、どれだけ海に近い位置を列車が走っているかよく分かります。

211系が313系と連結して海岸ギリギリを行く光景を、今回一度は見たかった!

そして、余裕があれば特急「ふじかわ」を待ってみてください。
静岡駅に向かう3両編成を綺麗に写せます。
2時間に1本程度しか来ないので、富士駅の発車時刻に間に合うようにさった峠にアクセスしてください。

見た感じ、季節・天候によるけどお昼前後から15時までが順光です。
それ以降は太陽が山に隠れてしまい、伸びてきた影で線路も列車も暗くなってしまいます。
正午あたりから2時間くらい撮影してみるのがよさそうですね。
また私も来ます。


ハイキングコースは安全第一で進もう

さて、存分に撮影を楽しんだところで、名残惜しいですが帰る時間になりました。
この眺望地点でも、標柱のそばにベンチこそあれ安全柵はありません。
いつも以上に安全第一で進んでください。

ハイキングコースの途中からさらに上り坂になります。
この坂はごぼう坂と呼ばれています。

坂を上り切ったあたりで、屋根付きの休憩スペース(あずまや)に到着!

ここから海沿いのトレイルコースを歩くと展望台を経て、さった峠駐車場と公衆トイレの横に出られます。
工事中につき展望台へはまだ行けませんが、近い位置に迂回路が新設されました。

一方、あずまやの近くに小穴もあります。
そこに入ると山中の(遠回り)迂回路を経て、車の通れる道路付近に抜けます。
ただし、周囲が鬱蒼とした環境となっており、足場も悪いので要注意!

どちらに進んでも、最終的には舗装路に合流して由比駅側に降りていくことになります。

峠道を降りきるまで駿河湾と(晴れていれば)伊豆半島の景色を堪能できるので、安全を確保しつつ最後までたっぷりお楽しみください。

倉沢地区の一里塚跡で峠道は終わりです。
あとは道案内に従ってまっすぐ歩いていけば、30~40分で由比駅に到着です。

興津駅からさった峠を経て由比駅までトータル2時間前後かかります。
写真撮影のために滞在する時間も含めると、この駅間だけで3~5時間は使うことになるでしょう。
しっかり準備をして、実り多い散策にしてくださいまし!

注意しておきたいこと

東海道本線沿線屈指の絶景を望めるさった峠ですが、それだけに注意することもいろいろあります。
由比駅編と同じ内容ですが、しっかりご確認願います。

どこでも同じですが、他の通行人や、近隣住民・施設等への迷惑になる行いはしないでください。
道幅の狭い道路では車にも注意して歩きましょう。

ハイキングコースに入ってからは普段以上に安全第一で!
ここまで見てきた通り、舗装路以上に狭い道幅で、位置により柵がないところをひたすら上がっていくことになります。
歩くのも立ち止まるのも安全な位置で行ってください。

装備は必ずしも登山向けで固める必要はありませんが、動きやすい服装が大前提です。
虫よけ対策や、ケガした時の応急処置手段も持っておくと良いでしょう。

そして、万が一にはクマが現れる可能性もあります。
可能なら二人以上で行動し、クマよけの鈴やミニラジオなど、音の出るアイテムを携行するのも手です。
その上で、なるべく見通しの良い場所を通行しましょう。

ハイキングコースを含め、峠道にゴミのポイ捨ては絶対にしないでください。
人間の食べ残し飲み残しがクマをおびき寄せる可能性はゼロとはいえません。
私が訪れた時、眺望地点にカルピスウォーターが捨てられていました。
由比駅に持って行って処分しましたが、こんなポイ捨て二度とやらないでね??

本当に運悪く、クマの子ども足跡・フンを見てしまった場合、すぐに引き返してください。
それらの近くには別のクマがいる可能性があります。
足元・周囲にも気を付けつつ、あわてず騒がずに下山しましょう。
くれぐれも、背中を見せて逃げ出す、大声を出す、子熊に近づくなど、クマを刺激する行動はやめてください。

周りの人に迷惑をかけるなというのはいつも通りですが、それに加えて身の安全の問題が大きく関わってきます。
最高の思い出になるはずの日をトラウマにしないためにも、しっかり準備や情報収集を行った上で楽しんできてください!


さいごに

今回は、東海道本線と富士山と駿河湾を一度に全部見れる絶景スポット、薩埵峠(さった峠)へ、興津駅からの歩き方を解説しました。
由比駅まで歩いた後、あわよくば桜えびのかき揚げも食べたかったけど時間切れでした…。

興津駅からさった峠への行き方は、国道1号線に出て、由比駅側に歩道を直進。
興津川を渡ってもなお直進し、洞踏切を渡ってから山に上がっていってください。
往還坂上の墓地から先がハイキングコースです。

清水市指定眺望地点だけなら、由比駅から歩くよりも近いです。
それでいて東海道本線を海沿いギリギリで俯瞰撮影できて、ここならではの写真が撮れます。
歩くのはかなり大変でしたが、良い場所なのでまたの機会に再訪したいですね。

由比駅編もありますので、まだ見ていない場合はぜひそちらもご覧ください。

今回はここまで!
ありがとうございました!

参考

静岡市公式サイト
薩埵(さった)峠ハイキングコースの一部区間通行止め

清見寺 公式サイト