令和の現代、Nゲージ鉄道模型は本当に多くの車両が完成品で手に入るようになりました。
近年デビューしたばかりの新型車両がいち早く製品化されたり、再現の難しかった旧型車両も新技術で模型化が実現したりと、製品ラインナップはだいぶ充実したんじゃないでしょうか。

しかし、マイナーなローカル鉄道を中心に、未だに製品化されていない車両ももちろんあります。
そういった車両は自分でキットを組むか、自作するかになってしまいます。
失敗するのが怖いって、思うことはありませんか?

もしキット制作に抵抗があるならば、いきなり組み立てキットなんかやらず、ジャンク品を塗り替えるところから、鉄道模型改造をやってみてはいかがでしょうか!?

この度私は、KATOが過去に発売していたオハ31旧型客車中古・ジャンク品で買い集め、JR湖西線ができる前に琵琶湖西岸を行き交っていた「江若鉄道」っぽい塗装に改造してみました。
多少アラもありますが、初めての塗り替えにしては上々でした。

オハ31形江若鉄道風仕様の制作工程を通して、鉄道模型の制作・改造方法の例をご紹介します。
本稿では、オハ31形の概要と塗装変更前の下準備について解説します。

前置きが長くなりましたがぜひご覧ください!


17m級の旧型客車

オハ31系旧型客車の実車は、1927(昭和2)年から2年間製造されていた、17m級車体の旧型客車。
かつ日本初の鋼製客車(半鋼製車)です。
それまでの客車は木造車体でしたが、鋼製車になることで安全性を高めつつ、当時の標準構造だった魚腹台枠ダブルルーフを有しています。
車内は木造ですがね。

元々は「オハ44400」のように5ケタ表記となっていましたが、称号改正を経てオハ31系列にまとまりました。

現在は、津軽鉄道に譲渡されていたオハ31形26号車が、ぶどう色1号に復元の上、鉄道博物館に静態保存されています。
津鉄といえば「ストーブ列車」!
「ストーブ列車」時代のダルマストーブの名残も見ることができますよ。

KATO初の国産Nゲージ

鉄道模型としてのオハ31系は、KATO(関水金属)が1965(昭和40)年、同社初の国産Nゲージ鉄道模型として、C50形蒸気機関車と共に製品化しました。
何度か再生産されており、最新版は2015年に発売(初製品化から50年)されています。

ラインナップは、3等車(今でいう普通車)の「オハ31」、2等車(今でいうグリーン車)の「オロ30」、3等客室・荷物室合造車「オハニ30」の3種類。
2等車で窓が等間隔な「オロ31」、車掌室付きの3等車「オハフ30」など、KATOが製品化していない形式は、コリン堂がペーパーキットで販売しています。

KATO旧製品らしく、車体と内装が一体成形で、床板と屋根でガラスを固定分解は屋根から行う構造です。
構造は古くてもリベット表現やドアの立体感はしっかり再現されており、内装も作り分けられています。
車番に加え、「オハ31」「オハニ30」は赤帯、「オロ30」は青帯も窓下に印刷済み。
2015年ロットでも1両1,000円しなかったので、鉄道模型の中でもだいぶ安価な部類ですね。

ただし、妻面は共通設計なのか、本来あっても良いはずのテールライトは省略されています。
屋根には天窓が設けられていますが、模型では天窓のモールドのみ表現(開いてない)。
構造上、点灯化も非対応です。
そういったところに値段相応なのが垣間見えますが、逆に言えばユーザーが自己責任で改造する余地もあるということ。

2024年時点、オハ31系の新品在庫はさすがにないと思います。
しかし、ポポンデッタなどのジャンク品コーナーで、1両ごとに袋詰めされた状態で販売されている可能性があります。
ぜひ中古品コーナーを除いてみてください。
他の旧型客車に比べて車体が短いので分かりやすいです。


湖西線の前身たる非電化鉄道

話は変わって江若(こうじゃく)鉄道について。

今、琵琶湖西部にはJR湖西線が通っており、高規格の線路を新快速特急「サンダーバード」最高時速130kmでぶっ飛ばしていますが、その湖西線ができる前に江若鉄道が存在していました。

近「江」と「若」狭を繋ぐ目的で設立された同線は、浜大津(現・びわ湖浜大津)~近江今津間、全長51.0kmを結んでいました。
1921(大正10)年に三井寺(三井寺下)~叡山間が開業し、10年後に浜大津~近江今津間に延伸したものの、結局若狭への乗り入れは叶わず、湖西線建設と引き換えに1969(昭和44)年に廃止。
1974(昭和49)年に国鉄湖西線が開業しました。

もし若狭まで線路が伸びていたとしたら、現・JR小浜線の上中駅に接続していたと思われます。
なお、「江若」の名前は江若バスに引き継がれています。

江若時代の路盤の一部は湖西線に転用されていますが、湖西線の用地にならなかった箇所の一部は道路や遊歩道になっていたりも。
たとえば、びわ湖浜大津駅近接「明日都浜大津(あすと大津市)」裏手から続く遊歩道「大津絵のみち」。
ここにかつて浜大津駅を出発してすぐの単線があったと思われます。

京阪石山坂本線から少し離れているとはいえ、江若鉄道線も琵琶湖疎水を渡っていたはずです。

現・湖西線にはトンネルで山をぶち抜いている箇所も多いですが、江若鉄道時代は湖沿いを走る場所が多く、山を避けていたようです。
地上の単線非電化区間を気動車・機関車がトコトコ走っていたことでしょう。
その線路跡と思われる道路も、近江高島駅付近で見かけました。

そして、江若鉄道線のハイライトといえばおそらく、白鬚(しらひげ)神社湖上鳥居
現在の近江高島駅から琵琶湖沿いに歩いて約40分、近江最古の神社だそう。

当時は湖岸ギリギリを列車が走り、鳥居も横切っており、神社の近くに白鬚駅がありました。
この付近の線路跡は、現在の国道161号線の一部になっています。

ちなみに、国道161号線は交通量が多い上に、神社近辺に横断歩道がありません
湖上鳥居を間近で撮ろうとして道路を渡っている外国人観光客(たぶん)がいましたが、危険なのでやらないでください。
神社も公式に横断禁止としています。

正史ではオハ27が払い下げ

冒頭で述べた津軽鉄道以外に、オハ31系列は江若鉄道にも譲渡されました。
2等車「オロ31」を普通車に格下げ改造した「オハ27」が3両(63~65号車)、1964(昭和39)年に国鉄から払い下げられました。

導入時に車体が塗り替えられ、トイレ・洗面所を撤去してロングシートに。
63・65号車の撤去跡スペースには車掌室も設置されました。
また、車両限界の関係で客室窓に保護棒が増設されました。

こうして江若鉄道の独自仕様に改造されたオハ27形は、DD13形ディーゼル機関車に牽引される客車列車として、快速や、夏の湖水浴臨時列車などに使用されたそうです。

実車再現としてはぜひともオハ27形にしたいですが、Nゲージの完成品にオハ27形(オロ31形)はありません。
コリン堂のペーパーキットを組めば手に入りますが、それでは制作難易度は高いまま。
改造初心者には手を出しづらい領域かもしれません。

だからこそ「色だけ塗り替えて江若鉄道『風』にしよう!」という魂胆なのです。
もはやタイプモデルですらありませんが!
完成写真を先にお見せするとこうです!

それでも、実車の雰囲気に似せて中古模型を塗り替えるだけなら、車両制作には多少なりとも挑戦しやすくなるのではないでしょうか。
お安い中古品を自分だけの仕様に作り替えるので、成功すれば一層愛着が湧くはず!

ここで身に付けた技術は、もちろん今後の鉄道模型趣味にも活かされるでしょう。
意を決してやってみましょう!


可能な限り部品を分解

初回なので実物解説が長くなってしまいましたがここからが本番です。
車両改造にあたって、まずは車体を分解しないと始まりません。

オハ31形は屋根から分解する構造ですので、貫通路からピンセットを差し込み内側から屋根を押し出して外します。
とんでもなく固いので割らないように注意!
KATO旧製品の分解についてはこちらで詳しく解説しています。

分解できるところまで分解しきったのがこちら。
撮影外で一度分解したので、その時に屋根の爪を少し削っておきました。
おかげでだいぶメンテナンスしやすくなりました。

このように、できる限界まで車体を分解しきってしまいましょう。
しかし今回、貫通ホロが接着剤でガチガチに固定されていて、無理に引っこ抜くと車体を割りかねないので諦めました。
後でホロだけ筆塗りすればカバーできるので、このまま進めましょう。

ガラス・床下間の爪受けも切っちゃった(ほぼ割れた)ので、このままでは車体の固定に支障が出ます。
作業が進んだら新しいガラスパーツを新製しましょう。

塗装前に一度は洗剤洗い

これから車体に塗料を吹き付けて色を塗り替えていくわけですが、すでに改造元の車体を素手で触りまくっていることでしょう。
手の油分が車体に残ると塗料が付きにくくなる可能性があります。

そのため一度、中性洗剤を薄めた水で洗っておきましょう。
人によってはやわらかい歯ブラシで磨くかもしれませんが、今回は漬け置きにしておきます。

30分程度漬け置いたら真水で洗い流し、水分を拭いてしばし乾燥を。
オハ31形は車体と内装が一体成形なので、入念に水を拭き取ってください。

そしたら車内をマスキングします。
今回は外側にだけ塗料を吹き、塗り分けもないので、車内に吹き込むのを防ぐマスキングさえやれば十分です。

ですので、車体の内側にマスキングテープを貼っていってください。
特に、窓からはほぼ確実に塗料が入り込むので、内側から窓周りをマスキングするのが必須!

上からの吹き込み対策には、余ったウレタンを詰めました。

今回は外装を塗った後に内装を筆塗りするので、多少の吹き込みは気にせずに進めます。


塗装用治具で安全に

車体にマスキングをして、塗装の準備ができました。
が、車体を手に持ったまま塗料を吹くわけにもいかないですよね?

割りばしなどの細い棒の先端に内側からテープ留め車内寸法に合わせたウレタンを噛ませるなどして、塗装対象を安全に塗装できるようにします。
小物であれば、先端にクリップの付いた市販の塗装棒も使えると思います。

でも今回は車体と内装が一体成形である以上、上記の方法はほぼ使えません。
いくらテープ留めしたって、足場が悪ければ落ちてしまいます。

そこで、余りもののスチレンボードを割りばしに切り貼りし、塗装棒を自作してみました。
足場となる面に両面テープを貼っており、それで床裏を固定します。

実際に車体を貼り付けたのがこんな感じ。
割りばし部分を手で持ったり、乾燥台に差したりできます。

これで下準備は完了、次から塗装作業に入れます!
が、長くなってしまうのでここでいったん区切りましょう。

さいごに

今回から数回に分けて、KATO旧製品のオハ31旧型客車を江若鉄道風に改造していきます。
本稿ではその前準備として、分解・洗浄・マスキングをやりました。

今回やっていく改造は、完成品を自分好みに塗り替えるだけですが、市販のキットを作る際も同じ作業をやることになります。
比較的難易度の低い、中古品の塗り替えを通して、鉄道模型制作のノウハウを身に付けていきましょう。
実際私にとっても良い経験になっています。

次回はいよいよ塗装をします!
今回はここまで!

参考

『江若鉄道―琵琶湖西岸の気動車王国―』(上・下) 著:高橋修 ネコ・パブリッシング(RM LIBRARY) 2021年5・6月

『週刊 歴史でめぐる鉄道全路線国鉄・JR No.42 阪和線・和歌山線・桜井線・湖西線・関西空港線』 発行:朝日新聞出版 2010年5月

KATO鉄道模型公式サイト
製品詳細|オハ31系・オハ32000形

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