国内Nゲージ鉄道模型のパイオニア・KATO(関水金属)は、日本型だけでなく外国型車両の模型化、さらには外国製ジオラマ素材・消耗品の販売も行っています。
今回手に取ったのは、KATOが英国デラックス・マテリアルズ社から輸入販売しているプラスチック接着剤「Plastic Magic」(プラスチックマジック、以下カタカナ)

パッケージでは「10s」、つまり「10秒で接着!」とアピールされていますが、実はそれより驚くべき特徴が…。
なんとこれ、有機溶剤を使っていないのです!
毒性が薄いゆえに不燃性で、国内大手のプラスチック接着剤に比べて高い安全性を有しています。

ただしそれなりのお値段もします。
価格に見合った価値は本当にあるのでしょうか…?

今回は、工作に役立つ耐水ペーパー治具をプラ板で自作し、この過程で実際に「プラスチックマジック」を使います。
使用感の参考程度にご覧いただければ嬉しいです。


英国生まれのプラスチック用接着剤

改めまして、これが「プラスチックマジック」です。
イギリスのデラックス・マテリアルズ社の製品で、日本ではKATOが輸入販売しています。
箱の正面は英語だらけですが、側面に日本語の説明もちゃんとありますよ。

箱を開けると入っているのは、見慣れた四角いガラスビンに、持ち手の青い刷毛。
青い刷毛は細筆になっており、キャップ本体の刷毛と使い分けができそう。

今挙げた通り、キャップがそのまま刷毛になっており、これで接着剤を直接塗布できます。
スチレンやABSを含め、大半のプラスチックが接着可能です。
液体はかなりサラサラなので、断面に塗って普通に接着する以外に、スキマに流し込んでの補強もこれ一本でできるはず。
それでいて筆はメンテナンスフリー固まらないらしいです!

箱やラベルに大きく「10 SEC CEMENT」と書かれているように、これを塗って貼り合わせて10秒で動かなくなる速乾性が特徴的。
しかし「プラスチックセメント」には、従来品によくある有機溶剤が全く入っていません
そのため、プラスチック接着剤でありそうでなかった非毒性・不燃性が両立しています!
あの独特な刺激臭も少ないので、安全にキット制作を行えます。

このような、揮発性のある有機溶剤を含まないマテリアルがある背景には、イギリスの気候が関係していると考えられます。
同国は、冬は連日氷点下を下回るほどの寒冷地。
日本の冬も寒いには寒いですが、欧州はその比ではないのでしょう。

それほどの寒い地域では、換気しようにも寒すぎて窓を開けられません。
もし、有害成分を含んだ溶剤・接着剤を使っているにもかかわらず、換気をしないで作業を続けていたら…?
非毒・不燃のマテリアルはこうした背景で生まれたのではないでしょうか。

1972年創業のイギリスのホビーメーカーが送る、海外モデラーへの定番マテリアル。
国内大手のKATOが2021年12月から輸入販売を始めたおかげで、お近くの鉄道模型コーナーで手に入ります!


面接着と流し込みでプラ板を貼り合わせ

さぁ、「プラスチックマジック」を使って実際にプラ板工作をやってみましょう!
本稿では、余りもののプラ板を使った耐水ペーパー治具を作ってみます。

プラスチック表面の研磨には欠かせない紙ヤスリや耐水ペーパー
だけど結局、紙は紙。
デコボコな表面を平滑にならすにも、紙のままでは思い通りにいかないかもしれません。

だから、耐水ペーパーを貼り付けて使いやすくするプラ板のベースがほしいと思いました。
撮影外であらかじめ部品を切り出し、持ち手側の面は、四辺を斜めにヤスリ掛けしておきました。
数字は耐水ペーパーの番手を表し、数字が大きいほど細かなヤスリになっていきます。

ベースには1.2mm厚のプラ板を30mm×15mm。
持ち手は1.2mm厚で20mm×10mm。
五角形の部品は0.5mm厚で11mm×10mmに切ってあります。

したら「プラスチックマジック」を接着面に塗り、持ち手を作ります。
接着剤は薄塗りで十分!

接着位置に押さえつけて、約10秒で本当に動かなくなりました!
とはいえ貼り合わせた直後は脆いので、完全固定まで最低30分は待ちましょう。
それまでなら少しは位置調整できます。

持ち手が固まったら、それをベースに固定します。
接着面に「プラスチックマジック」を薄く塗り、中央を狙って貼り付けました。

位置を決めて持ち手を固定した後、細筆で接着剤を流し込んで補強すると良いでしょう。
細筆に接着剤を含ませ、接着した部分をなぞってみてください。
サラサラな液体がスキマに入り込んでいきます。

同じものを6個作りました。
しっかり固着すれば、少しの力ではビクともしないほど頑丈になります。
前出の通り筆はメンテナンスフリーですが、気になるなら水洗いしておくと、保管時に余計な接着剤が垂れずに済みます。

あとは、書いた数字と同じ番手の耐水ペーパーを、ベースと同じ寸法で切り出し、両面テープも用意。

ペーパーを両面テープに貼り付ければ、治具付き耐水ペーパーの完成です。
使う時は、親指と人差し指で持ち手をつまむ、または親指と中指でつまんで人差し指を前に添える方法で研磨します。
耐水ペーパーは両面テープで留めてるので、貼り替えるのも簡単!

ただし、このような流し込みタイプ(他社製セメントも同様)では注意すべきことも。
接着剤を流したスキマには触れないようにしましょう。
裏から流した接着剤が指を伝って表に流れ出てしまいます。

コスパのセメント、安全性のマジック

こんな感じで、有機溶剤の心配がないのに従来品と同じように使える「プラスチックマジック」。
ですが、気になるのはその価格…。
KATOの輸入による国内定価で1,485円です。
量販店で買えば少し安くなるかも。

プラモデル向け接着剤の代表格「タミヤセメント」(タミヤ)なら、通常タイプが264円で、流し込みタイプでも407円
価格で比べれば「タミヤセメント」のほうが圧倒的に安いですね。
クレオス「Mr.セメント」シリーズもほぼ同額。
通常・流し込みを両方買っても「プラスチックマジック」の半額以下で済みます。

ですが、やはり有機溶剤のありなしによる違いは大きいです。
価格で不利な「プラスチックマジック」には、非毒・不燃による安全性という何よりのメリットが備わっています。
刷毛も2種類入っているので、面接着も流し込みもこれ一つでOK!

また、有機溶剤系の接着剤は、接着剤内の有機溶剤が全て揮発するとビンの中で完全固着して使えなくなってしまいます。
私もそれで一度、使い切っていない接着剤をダメにしてしまった経験があります。
筆が固まらないメンテナンスフリーなところも「プラスチックマジック」の長所なのでしょう。

ここまでの見解でまとめると、KATO「プラスチックマジック」は以下のような人に向いているのではないでしょうか。

  • 模型製作に水性・安全性を重視
  • 家族・ルームメイトなど、誰かと同居している
  • 正直、頻繁にキット制作するわけではない
  • 接着剤1本で面接着・流し込みを両方やりたい

非毒・不燃・匂いについては言わずもがな、これ1本をすぐに使い切るほど使用頻度がない場合もこちらが有利かもしれません。
スケールや部品にもよりますが、鉄道模型は基本的に小さなモデルなので、頻繁にキット組みや改造をしなければすぐに減ることはないでしょう。
コストはかかるものの、長く安全に使っていける接着剤ではないでしょうか。

一方、有機溶剤入りの従来のプラスチック接着剤はこういう人に向いているかも。

  • コスパ重視
  • 換気できる環境を確保しやすい
  • 頻繁にキットを作る、または作るものが大きい
  • 通常タイプと流し込みが両方ほしくて、両方保管できる余裕もある

言ってしまえば、「プラスチックマジック」とは真逆の状況ならこちらが有利でしょう。
頻繁にキット組立をしていてガンガン接着剤を消費する場合、またはNゲージよりも大きいモデルが中心の場合は、コスパの良い有機溶剤ありのセメントが適しているのではないかなと。

私みたいに「買ったのに全然使わなくて接着剤固まっちゃった…」ということにはならないでね。


さいごに

今回は、KATO(関水金属)が輸入販売するプラスチック接着剤「プラスチックマジック」(英・デラックスマテリアルズ)を買ってみて、耐水ペーパー治具を自作するのに使ってみました。
従来のプラスチック接着剤とはだいぶ異なる特徴でしたが、価格に見合ったメリットはあると思います。

これひとつで面接着・流し込み両方OKで、乾燥しきれば強度も十分!
それでいて有機溶剤不使用のため、安全に模型制作を行えます。
ますます私もキット制作に乗り出したくなりました。

とはいえ、従来のセメントのほうが安いのもその通りです。
環境が問題なかったり、コスパ重視したりなら、従来品のほうが有利。
プラスチック接着剤に迷っている時は、ご自身の環境や模型制作への考え方に沿って選ぶと良さそうです。

今回はここまで!
ありがとうございました!